ニキビに市販薬は効く?
外来での患者さんからの質問
「家にあったテラマイシン軟膏をニキビに塗ってみてもいいですか?」
市販の抗生物質入りの軟膏でニキビに対応できるか聞かれることがあります。
「忙しくて皮膚科に行けない!」という場合に、薬局で購入した薬が使えないか質問したくなる気持ちは理解できます。
そんな患者さんからの疑問に回答したいと思います。
結論から言うと
市販の抗生物質配合の軟膏は
①通常のニキビに対しては効果を期待しない方がいい(使わない方がいい)
②だけど状況によっては有効な場合がある
と考えます。
以下、この結論に至る説明です。
ニキビについて
そもそもニキビは、皮脂の分泌の多い毛穴が角質によって目詰まりを起こし、皮脂が貯まって毛穴に小さなふくらみが生じることから始まります。
これを面皰(めんぽう)と呼びます。ニキビの初期の状態です。
この段階では肌色か白い色をしており、赤くありません。
やがて毛穴の中に常在しているアクネ杆菌(Cutibacterium acnes)が皮脂を栄養に増殖し、強い炎症を起こして赤いニキビが生じます。
思春期のホルモンバランスの変化とともにニキビは増えていき、悪化すると瘢痕と呼ばれる「きずあと」となって残ります。
外見を損ない、QOL(生活の質)を低下されるため多くの方が悩んでいます。
ニキビ治療の原則
さまざま行われているニキビ治療のなかから、尋常性痤瘡治療ガイドライン(日本皮膚科学会)で推奨度Aとされているものを抜粋して紹介します。
【急性炎症期の炎症性皮疹に対して 推奨度Aの治療】
- クリンダマイシン1% / 過酸化ベンゾイル 3% 配合ゲル
- アダパレン 0.1% / 過酸化ベンゾイル 2.5%配合ゲル
- アダパレン 0.1%ゲル と 外用抗菌薬の併用
- 過酸化ベンゾイル2.5%ゲル
- アダパレン 0.1%ゲル
- 外用抗菌薬(クリンダマイシン,ナジフロキサシン,オゼノキサシン)
- アダパレン 0.1% / 過酸化ベンゾイル 2.5%配合ゲル と 内服抗菌薬の併用
- アダパレン 0.1%ゲル と 内服抗菌薬の併用
- 内服抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)
見づらくて恐縮ですが、要するに効果的な塗り薬、飲み薬をうまく併用して治療するのが現在のニキビ治療の主流ということです。
そしてこれらの薬剤は市販されておらず、医療機関を受診するのが安全で効果的な治療の近道となります。
ニキビに対しては、医療機関のみならず美容やコスメの分野でさまざまな治療や施術、その他の対策が試みられており、ガイドラインにおいてもピーリングや洗顔、スキンケアの有用性を評価する記述があります。
日常のケアも含めて、総合的にニキビに対応するのが重要です。
市販の塗り薬は皮膚科のニキビ薬の代用になる?
皮膚科で処方される抗菌剤の塗り薬には「リンコマイシン系抗生物質」または「ニューキノロン系抗生物質」が配合されています。
クリンダマイシン、ナジフロキサシン、オゼノキサシンなどがあり、ニキビの原因であるアクネ杆菌に対して優れた効果があります。
市販の外用抗菌薬にはこれらと同系統の抗生物質は配合されていません。
でも口コミでは…
ネットのコスメ関連のサイトの口コミを見ると、市販の抗生物質入りの塗り薬がニキビに効果があったという投稿が散見されます。
なかでも「テラマイシン軟膏a」についてはいくつかのサイトでニキビ(特に悪化時)に有効だったとの言及があり、また一部の通販サイトで「ニキビの薬」として紹介されていたりしました。
どうゆうことなのか皮膚科医目線で読み解いてみたいと思います。
テラマイシン軟膏aはどんな薬?
成分・特長
オキシテトラサイクリン塩酸塩、ポリミキシンB硫酸塩の2種類の抗菌成分を配合。
グラム陰性桿菌(特に緑膿菌)、グラム陽性菌及び陰性菌などに抗菌力を有する。
効果・効能
化膿性皮膚疾患(とびひ、めんちょう、毛のう炎)
※ニキビ(ざ瘡)は含まれていません
※医療機関で処方される「テラマイシン軟膏」にもオキシテトラサイクリン塩酸塩、ポリミキシンB硫酸塩が含まれていますが、やはりニキビには適応がありません。
ニキビに効くの?
「効く」という十分な証拠(エビデンス、データ)はありません。
テラマイシン軟膏aに含まれる「オキシテトラサイクリン塩酸塩」はテトラサイクリン系抗菌剤です。
これはニキビ治療の際に内服薬として使われるミノサイクリンと同じ系統です。
理屈の上ではニキビに効く可能性はありますが、残念ながら効果を裏付けるデータはわたしの知る限りありません。
そしてテトラサイクリン系抗生物質のニキビに対する効能は「抗菌作用」と「抗炎症作用」からなりますが、日ごろの診療を通じての実感としては抗炎症作用による部分が大きいように思います。
内服のテトラサイクリン系抗菌剤と同じような抗炎症作用が外用薬にあるかどうかは不明です。
ネットの記載はどう解釈する?
一部の口コミサイトなどでニキビに効果があったとの記載を見かけます。
これについては以下のような可能性があると思います。
ニキビの悪化時に「毛包炎」「めんちょう」などが合併し、これに対してテラマイシンaが効果を発揮した可能性です。
通常のニキビはアクネ杆菌が原因ですが、「毛包炎」「めんちょう」では、黄色ブドウ球菌、溶連菌、緑膿菌などが原因となります。
これらに対して抗菌作用を有するテラマイシンa軟膏が効く可能性はあると思います。
悪化したときに塗ったら効果があった、というのは「毛包炎」「めんちょう」が生じていたと解釈できるかもしれません。
リスクにも注意すべき
テラマイシン軟膏aに限りませんが、長期に連用するうちに薬の成分が合わなくなって、「かぶれ」を起こすことがあります。
また耐性菌が出現し、以後の治療に差しさわりを生じる可能性もあります。
漫然と使い続けるのは避けた方がよいでしょう。
まとめ
以下のようにまとめます。
テラマイシン軟膏aをニキビの治療薬として使うのはお勧めしない。
「毛包炎」や「めんちょう」が生じた際、短い日数に限って使用するのはよい。
薬は自分や大切な人の身体に使うものです。適応、用法容量を守って正しく使用しましょう。
【質問】
「家にあったテラマイシン軟膏をニキビに塗ってみてもいいですか?」
というはじめの患者さんからの問いへの答えはこうなります。
【回答】
大きな吹き出物が出来たときは何日間か塗ってみるとよいでしょう。
でも長く使い続けるのは避けましょうね。
ニキビが気になるのでしたら、まずは皮膚科に来てくださいね。
以上です。
商 品
効能効果:化膿性皮膚疾患(とびひ、めんちょう、毛のう炎)