発熱・悪寒が突然あなたを襲う
あるとき発熱、悪寒、倦怠感があなたを襲います。
前後して顔に痛み、熱感を伴う真っ赤な発疹が現れます。
首などのリンパ節がゴリゴリ腫れて、押すと痛みがあります。
あなたの症状は丹毒(たんどく)かもしれません。
丹毒は重症化すると腎炎を引き起こすこともあり、その後の人生に暗い影を落とす可能性がある病気です。
この記事は、医療機関で丹毒と診断された方、上記のような症状でこれから診察を受けに行く方に基礎的な情報を提供するものです。
丹毒の原因、症状、治療のポイント、注意点をくわしく解説します。
病気の正体を知ることで少しでも安心していただき、前向きに治療に取り組むきっかけになれば幸いです。
丹毒(erysipelas)とは
おもにA群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による皮膚の真皮(比較的浅い層)への感染です。
そのほか、B群、C群、G群の連鎖球菌、黄色ブドウ球菌が原因になることもあります。
掻き傷、擦り傷、虫刺され、耳かきによる小さな傷、足の水虫のただれなどから溶連菌が侵入すると考えられますが、感染経路がはっきりしないこともあります。
小児にも発生しますが、高齢者の患者が多く、とくに糖尿病などの基礎疾患のある方はリスクが高いと考えられます。
症 状
突然の発熱、悪寒、倦怠感とともに顔などに発赤が生じます。
患部の皮膚は硬くこわばり、発疹の形は比較的はっきりしていて、縁がやや隆起することもあります。
表面は毛穴が目立つとともに光沢があり、柑橘類(オレンジ)の皮のような外観になります。
発疹は遠心性(外に広がるように)に拡大していき、ときに水疱やただれを生じます。
患部は熱感を伴い、触れると痛みを発します。
左右の頬のどちらかに現れることが多いですが、両頬、耳、下肢に発生することもあります。
近くのリンパ節が腫れ、圧痛を伴います。
溶連菌による場合、のちに腎炎を生じることがあります。
【丹毒の症状のまとめ】
- 発熱、悪寒、倦怠感
- 硬く、形のはっきりした赤い発疹
- 縁(ヘリ)が隆起
- オレンジの皮のような外観
- 拡大し、ときに水疱を形成
- 頬、耳、下肢などに生じる
- 近くのリンパ節が腫れ、圧痛を伴う
- 腎炎発症の可能性
検査所見
白血球増多、赤沈亢進、ASO値上昇、炎症反応(CRP)上昇などが見れます。
培養検査は検出率が低いとされます。
治療
ペニシリン系、またはセフェム系の抗生物質の全身投与(内服、点滴)が有効です。
十分な治療を行わないと腎炎に移行する可能性があるほか、丹毒を繰り返しやすくなる(習慣性丹毒)ことがあるので注意が必要です。
重症の場合は入院も考慮されることがあります。
完治するまで10日~14日程度を要することがあります。
【ここがポイント】
少しでも早く医療機関を受診し、抗生物質の内服か点滴を開始する!
治療中気をつけたいこと
局所のケア
患部を清潔にし、刺激を避けること。
体力の回復
安静を保ち、疲労を避け、体力の回復につとめること。
治療をしっかり受ける
十分に治療しないと腎炎に移行したり、習慣性丹毒を生じやすくなります。
自覚症状が改善しても自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従い最後まで治療するようにしましょう。
丹毒によく似た皮膚病
帯状疱疹
丹毒は左右どちらかの頬に生じることが多く、帯状疱疹が三叉神経第2枝領域(頬)に出現した場合と症状が類似していることがあります。
どちらも片方の頬に赤い発疹が生じ、ときに水疱をともないます。
痛みがあり、倦怠感などの全身症状を認めることがあります。
初期段階では区別が困難な場合があり慎重な対応が必要です。
単純ヘルペス
頬にヘルペスが出ることは比較的稀ですが、発赤、水疱、痛みを生じるなど共通点があります。
またヘルペスの発疹に溶連菌等による感染が生じ、丹毒が合併することもあり得ます。
接触性皮膚炎、虫刺され
刺激物の接触による炎症、虫刺されによる炎症と症状が類似することがあります。
蜂窩織炎、壊死性筋膜炎
下肢に生じた場合、感染が真皮から皮下組織(皮下脂肪)にまで広がると蜂窩織炎と判断されます。
蜂窩織炎は黄色ブドウ球菌が原因であることが多いのですが、溶連菌が原因となることもあります。
丹毒より範囲が広く、境界が不明瞭になります。
更に深い筋肉にまで感染が及ぶと壊死性筋膜炎となり、激烈な痛み、患部の激しい腫脹、壊死を生じ、敗血症から多臓器不全に至ることがあります。
その他
クインケ浮腫(じんま疹の一種)、Sweet病、結節性紅斑、好酸球性蜂窩織炎 など
Q&A
Q.放置したらどうなりますか?
発疹の拡大、症状の長期化をまねきます。腎炎を発症し著しくQOLが下がる恐れがあります。症状が軽快したあとも丹毒を繰り返しやすくなります(習慣性丹毒)。
Q.人にうつりますか?
わたしがこれまに診察させていただいた丹毒の患者さん(確実に100名は超えていると思います)の周辺に、別の丹毒患者はいませんでした。
溶連菌の感染経路はいろいろ考えられますが、丹毒の方からうつるケースはほとんどないか、あっても稀だろうと推測しています。(私見です)
患者さんから問われた場合は、使用したフェイスタオルなどを洗濯せずに家族が使ったりしないよう配慮してください、などのアドバイスはしています。
Q.市販薬で治りますか?
抗生物質の全身投与(内服か点滴)が必要です。
塗り薬の抗生物質は市販されていますが効果は期待できません。
できるだけ早く医師の診察を受けてください。
まとめ
丹毒は発熱や倦怠感とともに痛みを伴う不快な発疹を生じる皮膚病です。
対応を間違えると何度も繰り返す可能性があり、腎炎を発症して最終的に腎不全に至る恐れもあります。
すこやかで健康な生活を続けるうえで、軽視できない病気です。
丹毒と診断された方、丹毒の恐れのある方は、自己判断や自己診断に頼らず、地域の皮膚科医のもとで適切な医療を受けることを強くお勧めします。