世界最高のエビデンスでやさしく伝える
最新医学で一番正しい アトピーの治し方
大塚篤司 著
「はじめに」 & 「序章」 を読んで
著者の大塚先生がこの本を書くにいたった思いや過去の苦い体験、われわれ医者が陥りがちな落とし穴について述べられています。
アトピー治療が混乱し、多くの患者さんが苦しんでいる根源にあるのが、「医療不信」だと真っ先に述べているところに大塚先生の勇気と覚悟を感じました。
この本を読んで自分の胸に手を当てて、忸怩(じくじ)たる思いをした医者はわたしだけではないはずです。
この本は「医療不信」という重い現実を出発点にしながらも、単に感情論に走るのではなく、科学的なエビデンスに基づいた医療でアトピー性皮膚炎に正面から向かい合うという著者の思いが凝縮した一般向け医学書籍です。
- アトピー性皮膚炎の患者さん
- その家族
- 皮膚科医
- アトピー患者さんに関わることがあるすべての医療介護関係者
にとって有益な一冊です。
またネット社会の現代で、
- なぜ多くの健康情報が錯綜し混乱を起こしているのか、その理由を知りたい方
- 嘘の健康情報に騙されたくない方
にも示唆に富む内容になっていると思います。
第1章 間違ったアトピー治療法を見分ける方法
アトピービジネスの現場で駆使される「だましのテクニック」を詳細に説明しています。
テレビの医療情報にも言及していて、
「医者がテレビで言っていたこと」は、残念ながら間違っている場合のほうが多い
という一文は2021年の状況のもとでは笑い事ではないと思いました。
もちろん正しい情報を伝える医師もいますが、「医者」だから、というだけで鵜呑みにするのは危険であることをわたしたちは知るべきでしょう。
第2章、第3章のまとめ
第2章でアトピーの正体を最新の医学的知見をもとに解説し、
第3章では「アトピービジネス」とも関連するさまざまな「民間療法」をエビデンス(証拠)に基づき評価しています。
あえて、「断言」する著者の語り口に、ちょっとした爽快感を感じました。
さまざまな民間療法に関心がある方も一度チェックして判断材料とするといいと思いました。
第4章 最新医学で一番正しい治し方とステロイドのウソ・ホント
ここが本書の「中心」です。
ステロイドに対して特に先入観がなく、最も正しいアトピー治療のエッセンスだけを知りたたい方は、50ページ足らずの第4章を読むだけで大きなメリットがあると思います。
ステロイド外用剤がアトピーの「標準治療」の中核であること、その塗り方、強弱のランクの使い分けの仕方、注意すべきポイントがたいへん分かりやすく説明されています。
- ステロイド外用剤を処方してもらっているけど、あまり改善しない
- 副作用が怖くて、ステロイドに抵抗感がある
- ステロイドにまつわる疑問、質問がたくさんある
という方はこの章を読むと、多くの納得を得られるでしょう。
第5章 その他の治療法と新薬について
ステロイド以外の標準治療について詳しく言及されています。
- 保湿剤
- タクロリムス軟膏
- 紫外線治療
- ネオーラル
- デュピクセント
について詳しく解説されています。
(私が院長を務めるたかはし皮膚科クリニックは、紫外線療法、ネオーラル、デュピクセントに対応しておりません)
個人的には保湿の重要性は強調しても強調しすぎることはないと思っていますので、詳しく解説しているのは大変ありがたいと思いました。
第6章 かゆみを抑える方法と生活習慣
アトピーのかゆみを抑えるさまざまな手段が解説されています。
アトピーの最大のつらさが「かゆみ」であることを踏まえ、飲み薬などの対処法を紹介するとともに、「かゆみ」とどのように付き合うとよいか、患者さんと家族に寄り添う姿勢で書かれています。
著者自身の過去の病気の経験を率直に述べつつ、患者さんの悩みを「自分事」に引き寄せて語られているのが強く印象に残りました。
終章 & あとがきにかえて
まとめの部分はぜひ本書を手に取ってご覧になっていただきたいと思います。
ちいさな心温まるエピソードで本書は閉じられています。
その前段で著者は、子宮頸癌ワクチンにまつわる一連の混乱に言及しつつ、
「互いに論破しあう対立構造の中では、患者さんの苦しみや問題を解決できない」
とうい趣旨のことを述べられています。
期せずして著者の言葉の重みが増したように思える今日この頃です。
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