あなただけではない円形脱毛症
よい患者・医者選び
円形脱毛症を考える会/編
円形脱毛症の患者団体が編集した書籍です。
数年ぶりにこの本をじっくり読んで思ったこと。
「脱毛症の患者さんの心の苦しみ(絶望、悲しみ、怒り)の大きさは、がん患者の心の苦しみにも引けを取らない」
そして、
「当事者ではない人間は、なかなかそのことに気づけない」
でした。
この本は、
- 脱毛が徐々に拡大し、不安や恐怖に押しつぶされそうになっている円形脱毛症の患者さん
- 大切な我が子が難治性の円形脱毛症となり、病気や我が子とどう接していいか悩んでいるご両親
に、「大丈夫、あなただけではない」という大切なメッセージを伝えてくれています。
そして
- 皮膚科の医者はもちろんのこと
- 患者を取り巻く地域社会の人々
- 心ない一言で深く傷つくおそれがある「脱毛症の子ども」と関わる学校・教育関係者
に、ぜひ一読して欲しい内容が盛り込まれています。
以下、章ごとに解説していきます。
第1章
脱毛症とともに生きる 心の軌跡
アメリカの脱毛症患者をサポートする団体が発行した「脱毛症にどう対処するか」という小冊子の内容を紹介しています。
脱毛症に直面し、自分の外見が大きく変わってしまう状況になったときの、人間の心の変遷について述べられています。
それらは
- 最初の衝撃
- 防衛機制
- 最初の気づき
- 敵意
- 再スタート
という段階を経るとされています。
脱毛症患者さんが、深い喪失感に直面し、いくつかの段階をへて、やがて人生を立て直し、新たな行動へ向かう流れを紹介しています。
人間の外見、とくに髪の毛の有無が、「自分が自分であること」といかに深く結びついているかをあらためて知らされました。
本書に紹介されたプロセスを経て、やがて自分も脱毛症に向き合えるようになると知っておくのは、患者さん本人、ご家族にとって有益だと思いました。
第2章
私は円形脱毛症とこうしてつきあった
8人(8家族)の円形脱毛症の体験談で構成されています。
- 周囲から奇異の目で見られること
- ウィッグ(カツラ)をつけていることが周囲にバレるのではという不安
- 就職、人間関係、恋愛の悩み
- 治療や副作用の悩み、苦しみ
当事者の生々しい声が紹介されています。
脱毛症になったとき、ほかの患者さんがどんなことに悩み、どう行動し、その後どうなったか、を知るのは、はじめてこの病気に直面した人にとって参考になると思いました。
第3章
医療は医者と患者の信頼関係
円形脱毛症を考える会代表 中島荘吉さんが執筆しているパートです。(肩書は本書による)
14ページほどの短いボリュームですが、患者としてどのように医者と関わるべきか、よい医者と出会い、おつきあいするにはどうしたらよいかが分かりやすい書かれています。
脱毛症の患者さんと医師が、いかにして確固とした関係を作り上げ、治療に取り組めるか?
多忙を極める診療現場で日々働いている開業医の立場からすると、難しい課題だと感じました。
中島さんはそのことも理解しているからこそ、よい患者として、よい医師に出会い、自分にあった治療を受けるためにどうすべきか、を冷静に書かれているのだと思います。
第4章
円形脱毛症について
前東邦大学大橋病院皮膚科学教室主任教授 斎藤隆三先生の執筆による、円形脱毛症とその治療法の解説です。(肩書は本書による)
本書の発行は2005年となっており、すでに10数年が経過していますが、病気の概念、主な治療は現在とほとんど変わっていません。
それだけ難しい病気であり、残念ながら治療法もゆっくりとしか進歩していないという現実を思い知らされます。
第5章
円形脱毛症に関するアンケート調査結果
「円形脱毛症を考える会」が医療機関、患者さんに対しておこなったアンケート結果が紹介されています。
- 医療機関においては一般的(教科書的)な治療のみを行っているところが多く、局所免疫療法などの積極的治療を行っているところは比較的少数
- 患者さんからみた治療効果は、103名の回答のなかで「良くなった」がわずか7名で、「治らなかった」36名、「あまり変わらない」27名などが続いている
といった結果が紹介されています。
4章を執筆されている斎藤先生が結果についてコメントを書かれています。
「(中略)治療法の効果と限界について患者さんとよく話し合い、精神的負担を和らげることが重要であるが、患者さんからみた医師の対応についてはまだまだ改善することが多くありそうである。(略)」
なかなか有効な治療法がなく、多くの患者さんが治療結果、医療機関の対応に満足していない現実が現われているようでした。
第6章
アイメイクからのメッセージ
眉毛やまつ毛の脱毛に悩んでいる患者さんにアイメイクのコツやヒントを紹介しています。
まとめ
高橋からの解説、まとめ
円形脱毛症は免疫異常によって生じる脱毛症で、頭皮などに形のはっきりした数センチの脱毛が生じます。
症状が進行し「全頭型脱毛症(頭髪のほとんどが抜ける)」「汎発型脱毛症(頭以外の体毛も抜ける)」となると、非常に治りにくく、患者さんのQOLが著しく損なわれます。
円形脱毛症は、「毛髪」という「外見的問題」を除いて考えると、それ以外の健康上の障害をほとんど伴いません。
しかし、「外見」が変化するということは、社会的な存在であるわたしたち人間にとって重大な問題です。
とくに発達段階の子どもの精神的負担には特に配慮する必要がありますし、ご両親のサポートも重要です。
わたしたちの心を傷つけ、人生にも大きな影響を与えかねない厄介な病気。
まずは「ただしく知る」ことから始めたいものです。
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