突然発症する蜂窩織炎
突然、片方のふくらはぎが赤く腫れあがり、痛みを発しています。
触れると熱を持っており、体もだるい気がします。
これは蜂窩織炎(ほうかしきえん)の症状です。
この記事では医療機関で蜂窩織炎と診断された方が知っておくべきこと、注意すべきことをご紹介します。
蜂窩織炎(Cellulitis)とは
皮膚の真皮から皮下組織(皮下脂肪組織)に生じた細菌感染による急性の炎症です。
おもに黄色ブドウ球菌という細菌が原因になりますが、A群β溶血性レンサ球菌、インフルエンザ菌などの感染によることがあります。
片側の下肢に生じることが多く、赤く腫脹し、熱感、痛みを伴います。
発熱、悪寒など全身症状を伴うことがあり、放置すると敗血症や壊死性筋膜炎に至ることがあります。
安静を保つとともに、抗生物質の内服または点滴を行う必要があります。
放置すると重大な結果につながる恐れがありますので、速やかに医師の診断を受けて治療を受けるようにしましょう。
症状と経過
最も多く発生するのは下腿です。
左右の一方(片側性)に生じますが、まれに両側性のこともあります。
上肢や顔に発生することもあります。
数日の経過で発赤、腫脹が生じ、熱感と痛みがあらわれます。
発赤の中央は徐々にただれ、水疱や膿が貯まった膿瘍を生じることがあります。
患部から連なるリンパ管に沿って発赤、腫脹を生じてリンパ管炎となることがあります。
患部の近くのリンパ節が腫脹し圧痛を伴います。
感染が生じているのは真皮深層から皮下組織です。
真皮に限定して感染を起こす丹毒より深く、より広範囲に広がります。
丹毒に比べ発疹の境界ははっきりしません。
発熱、悪寒、頭痛、関節痛、全身倦怠などの症状を伴います。
重症化すると、より深い筋膜や筋肉に感染が及ぶ壊死性筋膜炎、全身に細菌感染が広がり多臓器不全を引き起こす敗血症に至る恐れがあります。
感染の経緯
虫刺されやカブレ、水虫のただれなど、軽微な傷から細菌が侵入すると考えられますが、はっきりした外傷が確認できない場合もあります。
原因となる細菌は黄色ブドウ球菌が多く、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)、インフルエンザ菌などの場合もあります。
イヌやネコに咬まれた場合、パスツレラ菌(Pasteurella multocida)による蜂窩織炎が生じることがあり、傷が深部に及ぶと骨髄炎を引き起こすことがあります。
糖尿病の患者さん、そのほか基礎疾患があり免疫力が低下している患者さんは重症化しやすく、注意が必要です。
診断と治療
視診、触診により症状を把握し、経過や病歴を勘案して診断します。
必要に応じて血液検査を行うことがあります。
蜂窩織炎になると白血球増多、CRP(炎症反応)上昇などがみられます。
軽症の場合
軽症の場合は外来にて抗生物質の内服による治療を行います。
患部の安静、下肢挙上、クーリングを指示します。
発熱、疼痛に対しては解熱鎮痛剤を処方することがあります。
1~2週間で改善することが多いですが、医師の指示に従って十分な治療を受けることが重要です。
治療の中断があると症状が長引くほか、蜂窩織炎を再発しやすくなります。
重症の場合
症状が強い場合、入院による治療が検討されます。
高熱がある場合、基礎疾患がある場合などは初期のうちに入院治療を決断し、抗生物質の点滴を行うべきでしょう。
入院中は安静を確保し、全身状態の変化に注意します。
敗血症や壊死性筋膜炎への進展がないかを慎重に見極めながら治療を進めます。
よく似た病気
よく似た皮膚疾患があり、これらとの区別は重要です。
うっ滞性皮膚炎(Stasis dermatitis)
静脈の異常や静脈血のうっ滞により、下肢に腫脹、発赤を生じます。
急性の炎症である蜂窩織炎とは異なり慢性の経過をたどりますが、表面の微細な傷などから感染を生じて蜂窩織炎を合併することがあります。
好酸球性蜂窩織炎
好酸球性蜂窩織炎(こうさんきゅうせいほうかしきえん:eosinophilic cellulitis)はウェルズ症候群(Wells’ syndrome)と呼ばれ、四肢にかゆみを伴う発赤、腫脹、水疱を生じる炎症性の皮膚病です。
感染症やケガをきっかけに生じる反応性の皮膚病とされていますが、はっきりとした原因が分からないことがあります。
「蜂窩織炎」という名前がついていますが、感染性の炎症ではなく、治療には抗生物質ではなくステロイドの外用薬または内服薬を使用します。
病理組織診断により脂肪組織にflame figureと呼ばれる所見が確認されれば診断の根拠になります。
結節性紅斑
下腿に圧痛を伴う数センチの発赤がいくつも出現します。多発して炎症が拡大すると蜂窩織炎に似た臨床像になります。
上気道感染感染をきっかけに生じることが多く、病理組織学的には皮下脂肪組織に炎症が生じています。
通常、数週間で自然治癒します。
極力安静を保つようにし、必要に応じ消炎鎮痛剤を服用していただきます。
痛風
高尿酸血症により尿酸が結晶化して析出し、足の関節に発赤、腫脹、つよい痛みを生じます。
発疹の分布、突発的な痛み、食事などの生活歴などから判断します。
治療中気をつけたいこと
安静と休息
自宅で治療する場合でも長時間立って活動するのは避け、極力安静を保ちましょう。
休むときは下肢の下に枕などをあてがい、挙上しましょう。
十分に休息、睡眠をとり、免疫力が低下しないようにしましょう。
患部を冷やす
氷嚢、氷枕などで患部を冷やすようにしましょう。
基礎疾患の治療
糖尿病など基礎疾患の治療をしっかりうけましょう。
治療を中断しない
自己判断で治療を中断すると将来的に蜂窩織炎を繰り返しやすくなります。
医師の指示のもと十分な治療を受けましょう。
Q&A
ほかの人にうつりますか?
通常の生活をしている限りほかの人にうつることはありません。
学校や仕事に行っていいですか?
基本的には自宅で安静にすることをお勧めします。
医師と相談のうえ学校や職場に行く場合でも、長時間歩くこと、激しい運動、体に負荷となる作業は極力控えましょう。
入浴してもいいですか?
長時間入浴して温まると腫れと痛みが強まるおそれがあります。
症状か落ち着くまではぬるめのシャワーで短時間で体を洗うようにしましょう。
病院に行かず市販薬で治療することはできますか?
抗生物質の全身投与が必要です。塗り薬の抗生物質では治療効果は期待できません。
医療機関で治療を受けることをお勧めします。
どうやったら予防できますか?
蜂窩織炎が生じやすい下肢などに傷ができないよう普段から気をつけましょう。
靴ズレ、虫刺されの傷、湿疹を引っ掻いて作った傷などから細菌が入る可能性があります。
休息、睡眠をしっかりとり、免疫力を下げないようにしましょう。
糖尿病や足白癬(水虫)を放置せず、治療を受けましょう。
治療を受けたのですが、赤みと腫れがつづいています。大丈夫でしょうか?
十分な治療を受けても少しの赤み、色素沈着、むくみがしばらく残ることがあります。
痛みと熱感がなく、医師から治療を終了してよいと言われている場合は様子を見てもよいと思われます。
自己中断した場合や、痛みや熱感がある場合はあらためて診察を受けた方がよいでしょう。
まとめ
蜂窩織炎は軽視できない感染症です。
十分な治療をしなければ重症化のリスクがあります。
また再発しやすくなる可能性があります。
熱感、痛みを伴う四肢や顔の発疹に気がついたら、早めに医療機関を受診しましょう。